支払督促が確定していても、消滅時効を主張できる余地があります
裁判所から届いた支払督促をそのままにしていたところ、仮執行宣言付支払督促が確定してしまうことがあります。
この場合、
「裁判所の手続が確定した以上、もう消滅時効は主張できない」
と思われるかもしれません。
しかし、通常の裁判で判決が確定した場合と、仮執行宣言付支払督促が確定した場合とでは、消滅時効の扱いが異なることがあります。
特に問題になるのが、支払督促の申立てがされる前に、すでに消滅時効が完成していた場合です。
この場合、仮執行宣言付支払督促が確定していても、完成していた消滅時効を後から援用できる場合があります。
宮崎地方裁判所令和2年10月21日判決は、このような事案で確定後の時効援用を認め、強制執行を許さないと判断しています。
ただし、
「支払督促なら確定後でも必ず時効を主張できる」
という意味ではありません。
次の3点を順番に確認する必要があります。
- 消滅時効がいつ完成したのか
- 支払督促がいつ申し立てられたのか
- その後に一部弁済や支払約束をしていないか、している場合はその経緯
まだ支払督促や仮執行宣言付支払督促が届いたばかりの方へ
確定する前であれば、まず督促異議の期限を確認する必要があります。
支払督促の仕組みや督促異議については、別ページで詳しく説明しています。
支払督促の「申立て前」に時効が完成していたかが分岐点
支払督促と消滅時効を考えるときは、消滅時効の完成と支払督促の申立てのどちらが先だったのかを確認します。
この先後によって、その後の扱いが大きく変わります。

時効完成後に支払督促が申し立てられた場合
支払督促の申立て前に、すでに消滅時効が完成していた場合です。
図のケース1「時効が完成した後に、支払督促が申し立てられた」ケースです。
後から支払督促が申し立てられ、仮執行宣言付支払督促が確定しても、完成していた時効が当然になかったことになるわけではありません。
仮執行宣言付支払督促には、通常の確定判決と同じ既判力は生じないと解されています。
そのため、確定後に消滅時効を援用し、請求異議の訴えによって強制執行の不許を求められる場合があります。
この記事で中心的に扱うのは、このケースです。
当事務所の対応例|時効援用通知の2日後に財産開示申立てが取り下げられた事例
時効完成前に支払督促が申し立てられた場合
一方、消滅時効が完成する前に支払督促が申し立てられた場合は、完成した時効を後から援用するという問題ではありません。
支払督促の申立てによって時効の完成が猶予されます。
その後、仮執行宣言付支払督促が確定した場合には、時効が更新され、新たな時効期間が進行することになります。
この場合は、後で説明する時効の完成猶予・更新の問題として検討します。
消滅時効がいつ完成したのかを確認する
では、自分のケースがどちらに当たるのかを判断するためには、まず消滅時効がいつ完成したのかを確認する必要があります。
貸金の場合、最後に返済した日だけを見ればよいとは限りません。
契約内容や返済状況によって、弁済期や期限の利益を喪失した時期などを確認する必要があります。
また、途中で一部弁済をしたり、債務を承認したりしていると、時効の計算が変わることがあります。
過去に裁判や支払督促を受けている場合も同じです。
確認する主な事項は次のとおりです。
- 最後に返済した日
- 弁済期
- 期限の利益を喪失した日
- 一部弁済の有無
- 支払約束や分割交渉の有無
- 過去の訴訟・支払督促の有無
- 強制執行や財産開示手続の有無
- 今回の支払督促が申し立てられた日
「5年以上前の借金だから時効だ」とは判断できません。
時効完成日と支払督促の申立日を具体的に並べ、どちらが先だったのかを確認することが必要です。
時効完成前の支払督促は「完成猶予・更新」の対象になる
ここからは、図のケース2「時効完成前に、支払督促が申し立てられた」ケースを説明します。

現行民法147条1項は、時効の完成猶予事由として「支払督促」を挙げています。
そのため、時効が完成する前に支払督促が申し立てられると、その手続が続いている間は、原則として消滅時効は完成しません。
さらに、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定すると、その手続の終了時から新たに時効が進行します。
これが「時効の更新」です。
| 時点 | 現行法上の基本的な効果 |
|---|---|
| 時効完成前に支払督促が申し立てられた | 時効の完成が猶予される |
| 仮執行宣言付支払督促が確定した | 時効が更新され、新たに進行する |
| 支払督促の申立て前に時効が完成していた | 完成済みの時効が当然に消えるわけではない |
したがって、「支払督促を申し立てれば、いつでも時効が更新される」わけではありません。
完成猶予や更新が問題になるのは、支払督促の申立て時点で、まだ消滅時効が完成していなかった場合です。
すでに時効が完成していた場合は、前述したケース1「時効が完成した後に、支払督促が申し立てられた」ケースとして検討します。
支払督促が確定すると時効は10年になるのか
現行法の条文上は、民法169条が、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利について定めています。
もともとの時効期間が10年より短い場合でも、その時効期間は10年になります。
また、民事訴訟法396条は、確定した仮執行宣言付支払督促について「確定判決と同一の効力を有する」と定めています。
そのため、
「仮執行宣言付支払督促が確定すれば、時効期間も10年になるのではないか」
という問題が生じます。
もっとも、仮執行宣言付支払督促の確定によって時効期間が10年になるかについては、旧法が適用された下級審裁判例で判断が分かれています。
宮崎簡易裁判所令和4年12月13日判決は、仮執行宣言付支払督促が確定した場合について、5年の時効期間が10年に延長されることを否定しました。
一方で、10年への延長を認めた裁判例もあります。
ただし、この「10年になるか」という問題は、時効が完成する前に支払督促が申し立てられた場合の話です。
すでに時効が完成した後に支払督促が申し立てられた場合は、この記事で説明しているように、完成した時効を後から援用できるかが問題になります。
2020年4月1日より前の借金は旧法が適用される場合がある
消滅時効については、2020年4月1日に改正民法が施行されています。
そのため、古い貸金債権については、現在の民法147条や169条などをそのまま当てはめることができない場合があります。
契約がされた時期や債権が発生した時期によっては、改正前の民法や旧商法の時効に関する規定が適用されます。
改正前の法律では、現在の「完成猶予」「更新」に相当する場面について、主に「時効の中断」という用語が使われていました。
また、貸金業者などの商事債権については、旧商法522条による5年の消滅時効が問題となる事案もありました。
先ほど紹介した宮崎簡易裁判所令和4年12月13日判決も、旧商法522条による5年の時効と、旧民法174条の2による10年の時効との関係が問題となった事案です。
また、この後に紹介する宮崎地方裁判所令和2年10月21日判決も、改正前の法律が適用された事案です。
したがって、古い借金については、
「最後の返済から何年経過したか」だけではなく、その債権に旧法と現行法のどちらが適用されるのか
を確認する必要があります。
そのうえで、支払督促の申立てが時効完成の前だったのか、それとも後だったのかを検討します。
時効完成後に支払督促が申し立てられても、完成した時効が当然に消えるわけではない
消滅時効は、一定の期間が経過しただけで、裁判所が自動的に適用する制度ではありません。
民法145条は、当事者が援用しなければ、裁判所は時効を理由として裁判することができないと定めています。
そのため、時効期間が経過していても、債務者が何も主張しないまま支払督促の手続が進むことがあります。
支払督促も、債務者の言い分を聞かずに発付される手続です。
民事訴訟法386条は、支払督促を、債務者を審尋しないで発すると定めています。
つまり、消滅時効が完成していることと、支払督促が発付されることは両立します。
支払督促の申立てが時効完成後であった場合、その後に仮執行宣言付支払督促が確定しても、完成していた時効が当然になかったことになるわけではありません。
確定判決と仮執行宣言付支払督促の違いは「既判力」
ここが、この問題の中心です。
民事訴訟法396条は、仮執行宣言付支払督促が督促異議のないまま確定した場合、「確定判決と同一の効力を有する」と定めています。
それなら、
「確定判決と全く同じではないか」
という疑問が出てきます。
しかし、通常の確定判決と仮執行宣言付支払督促には、大きな違いがあります。
それが既判力です。
既判力とは、確定判決で判断された法律関係について、後の裁判で蒸し返すことを原則として許さない効力です。
通常の訴訟では、当事者双方に主張と立証の機会を与えたうえで、裁判官が判断します。
一方、支払督促は、裁判所書記官が債務者を審尋せずに発付します。
そのため、仮執行宣言付支払督促が確定しても、通常の確定判決と同じ既判力は生じないと解されています。
確定判決との比較
| 比較項目 | 通常訴訟の確定判決 | 確定した仮執行宣言付支払督促 |
|---|---|---|
| 判断する者 | 裁判官 | 裁判所書記官 |
| 債務者の言い分 | 主張する機会が与えられる | 督促異議を出さなければ実体審理なし |
| 実体審理 | あり | なし |
| 強制執行 | 可能 | 可能 |
| 既判力 | あり | 生じないと解される |
| 成立前の事情を後から争えるか | 原則として制限される | 請求異議で争える余地がある |
民事訴訟法396条の「確定判決と同一の効力」は、「通常の確定判決と全く同じだから一切争えない」という意味ではありません。
通常訴訟の判決が確定した場合は扱いが違う
貸金業者から通常の訴訟を起こされ、判決が確定した場合は、支払督促とは扱いが異なります。
民事執行法35条2項は、確定判決に対する請求異議の理由を、口頭弁論終結後に生じた事情に限定しています。
例えば、訴訟を起こされた時点で、すでに消滅時効が完成していたとします。
債務者が訴訟を放置し、時効を援用しないまま判決が確定した場合はどうなるでしょうか。
この場合、後の請求異議の訴えで初めて、
「裁判の前から時効が完成していました」
と主張することは、原則としてできません。
確定判決には既判力があるからです。
この違いがあるため、「裁判所の手続が確定している」というだけでは結論が決まりません。
債務名義が確定判決なのか、仮執行宣言付支払督促なのかを確認する必要があります。
宮崎地裁令和2年10月21日判決が認めた確定後の時効援用
この問題を正面から扱った裁判例として、宮崎地方裁判所令和2年10月21日判決があります。
事件番号は令和2年(レ)第10号です。
簡易裁判所の判決に対する控訴審として、宮崎地方裁判所が判断した請求異議事件です。
事案の概要
消費者金融の貸金債権について、支払督促が申し立てられる前に消滅時効が完成していました。
債務者は、支払督促に督促異議を申し立てませんでした。
仮執行宣言付支払督促にも異議を申し立てず、そのまま確定しました。
その後、債務者が消滅時効を援用し、仮執行宣言付支払督促に基づく強制執行を許さないよう求めました。
裁判所の判断
宮崎地裁は、仮執行宣言付支払督促には既判力がないことを前提として判断しました。
そして、時効完成後に仮執行宣言付支払督促が確定しても、すでに完成していた消滅時効が中断することはないとしました。
その結果、確定後の時効援用を認め、仮執行宣言付支払督促に基づく強制執行を許さないと判断しました。
この判決を見るときの注意点
この判決は、最高裁判所の判例ではありません。
地方裁判所の控訴審判決です。
また、改正前の民法が適用された事案です。
そのため、
「仮執行宣言付支払督促なら、確定後でも必ず時効援用できる」
と一般化することはできません。
それでも、この判決は、
支払督促の申立て前に時効が完成していた場合には、確定後でも時効を援用し、請求異議によって強制執行を排除できる場合がある
ことを示した裁判例として参考になります。
福岡地裁令和7年5月13日判決も「支払督促には既判力がない」と判断
宮崎地裁判決とは別に、福岡地方裁判所令和7年5月13日判決(令和6年(ワ)第4227号)も、仮執行宣言付支払督促の性質について判断しています。
福岡地裁は、支払督促は裁判所書記官が発付し、請求の当否について実体的な判断が行われないとしました。
そのため、その性質上、既判力は生じないと判断しています。
そのうえで、請求異議の訴えでは、請求権の発生原因や債務名義の成立についても争うことができるとしました。
この事件は、消滅時効を直接判断したものではありません。
しかし、確定した仮執行宣言付支払督促が、実体審理を経た確定判決とは異なることを示す近時の裁判例として参考になります。
当事務所の対応例|時効援用通知の2日後に財産開示申立てが取り下げられた事例
当事務所では、仮執行宣言付支払督促が確定した後、さらに財産開示手続まで申し立てられていた事案について、ご依頼を受けたことがあります。
債権者はオリンポス債権回収株式会社でした。
同社は、山口地方裁判所周南支部に財産開示手続を申し立て、その債務名義として、平成30年の仮執行宣言付支払督促を挙げていました。
財産開示手続が、消滅時効を確認するきっかけになりました
財産開示手続は、債務名義を持つ債権者が、債務者の財産を把握し、その後の差押えなどにつなげるための手続です。
財産開示期日まで手続が進んでいた
財産目録の提出期限と出頭日が指定され、財産開示の直前まで手続が進んでいました。放置できる段階ではなかった
正当な理由なく出頭しない場合には刑事罰の可能性もあり、対応が必要な状況でした。財産開示が時効確認のきっかけになった
債務名義となった仮執行宣言付支払督促を確認し、消滅時効の検討につながりました。

この時点で、財産目録の提出期限は令和8年9月14日、財産開示期日は同月24日午前11時と指定されていました。
つまり、ご依頼を受けた時点では、単に古い借金について請求を受けているという段階ではありません。
仮執行宣言付支払督促が確定し、さらに債務者本人が裁判所へ出頭して財産を開示する手続まで進んでいました。
一見すると、
「支払督促も確定しているし、財産開示まで申し立てられたのだから、もう支払うしかない」
と思われる場面です。
しかし、当事務所では、まず財産開示手続の根拠となっている債務名義そのものを確認しました。
その結果、債務名義は平成30年の仮執行宣言付支払督促でした。
さらに、その支払督促が申し立てられるまでの取引経過を確認したところ、支払督促の申立て前に、すでに対象債権の消滅時効が完成していたと判断しました。
財産開示手続まで進んでいたことが、逆に、「この債務名義の前提となった債権は、本当にまだ請求できるものなのか」を改めて確認するきっかけとなったのです。
令和8年9月9日|当事務所から消滅時効を援用
当事務所で取引経過を確認したところ、その支払督促が申し立てられる前に、対象となる債権の消滅時効が完成していたと判断しました。
そこで、令和8年9月9日、当事務所からオリンポス債権回収株式会社に対し、消滅時効を援用する通知書を発送しました。
通知書では、
- 財産開示手続が申し立てられていること
- その債務名義が仮執行宣言付支払督促であること
- 支払督促手続以前に消滅時効が完成していること
- 仮執行宣言付支払督促には既判力がないことを前提に、消滅時効を援用すること
を明確に伝えています。

令和8年9月11日|財産開示申立てが取り下げられた
その2日後である令和8年9月11日、オリンポス債権回収株式会社は、財産開示手続の申立てを取り下げました。

取下書には、
「申立人の都合により本件申立を取り下げます」
と記載されています。
したがって、取下げの理由が消滅時効の援用であったと、書面上明示されているわけではありません。
ここは事実として区別する必要があります。
この経過をどのように見るか
今回の経過を時系列で並べると、次のようになります。
令和8年8月21日
財産開示期日呼出状が発付
↓
令和8年9月9日
当事務所から消滅時効援用通知を発送
↓
令和8年9月11日
債権者が財産開示申立てを取下げ
↓
令和8年9月14日
財産目録の提出期限
↓
令和8年9月24日
財産開示期日
当事務所が消滅時効を援用したのは、財産目録の提出期限や財産開示期日より前でした。
そして、時効援用通知を発送した2日後に、債権者は財産開示申立てを取り下げています。
消滅時効の援用は、相手方に対する意思表示です。
債権者から、
「消滅時効の成立を認めます」
という回答を得なければ効力が生じないものではありません。
今回も、当事務所は支払督促手続以前に消滅時効が完成していると判断し、その旨を明確に通知しました。実際の通知書でも、財産開示手続の債務名義となっている仮執行宣言付支払督促を特定したうえで、その支払督促以前に消滅時効が完成していたとして時効を援用しています。
その直後に、債権者は財産開示申立てを取り下げました。
もっとも、取下書には、
「申立人の都合により本件申立を取り下げます」
と記載されているだけで、消滅時効の援用を受けたことが取下げの理由であるとは明記されていません。
そのため、
「債権者が消滅時効の成立を正式に認めた」
とまで断定することはできません。
一方で、時効援用通知の発送から2日後に、それまで進められていた財産開示手続を債権者が取り下げたことも事実です。
この経過からは、少なくとも債権者側が、この債務名義を使って財産開示やその後の回収手続をそのまま続ける必要はないと判断した可能性が高いと考えられます。
本件では、その後、当事務所からさらに請求異議の訴えを提起することなく、財産開示手続は取下げによって終了しています。
財産開示まで進んだ段階で時効を確認する意味
この事案から分かるのは、支払督促が確定し、さらに財産開示手続まで進んでいるからといって、消滅時効を検討する余地がなくなるとは限らないということです。
むしろ、財産開示手続の申立てを受けた段階で、
「そもそも、この財産開示の根拠となっている債権は、まだ請求できるものなのか」
と確認することが重要な場合があります。
本件では、財産開示手続の債務名義を確認したことが、平成30年の仮執行宣言付支払督促にさかのぼって取引経過を調べるきっかけとなりました。
その結果、支払督促の申立て前に消滅時効が完成していたことを確認し、時効援用につながりました。
また、古い債権について消滅時効の可能性がある場合には、債権者との間で支払いや分割払いの話をする前に、時効の成否を確認する意味があります。
時効完成後に一部弁済をしたり、
「少しずつなら支払います」
「分割で支払いたいです」
などと支払意思を示した場合、その後の時効援用が信義則上許されるかどうかが問題になることがあるためです。
もっとも、一部弁済や支払意思の表明があれば、必ず時効を援用できなくなるわけではありません。
支払いに至った経緯や債権者とのやり取りなど、具体的な事情を確認する必要があります。
なお、本件について、債権者が債務承認を得ることを目的として財産開示手続を申し立てたと確認できる資料はありません。
したがって、そのような目的があったと断定することはできません。
ただ、財産開示まで手続が進んでいる場合には、債権者とのやり取りや裁判所での対応も現実のものとなります。
だからこそ、不用意に支払いや分割払いの話をする前に、債務名義の内容、支払督促の申立時期、消滅時効の完成時期を確認することが大切です。
本件では、
財産開示手続の申立て
→ 債務名義と取引経過を確認
→ 支払督促申立て前の時効完成を確認
→ 消滅時効を援用
→ 2日後に財産開示申立てが取下げ
という経過をたどりました。
「財産開示まで進んだから、もう支払うしかない」と直ちに判断せず、その前提となっている債権と債務名義を改めて確認することが、解決の糸口になる場合があります。
仮執行宣言付支払督促の確定後は請求異議の訴えを検討する
時効を援用できるとしても、それだけですべての問題が解決するとは限りません。
仮執行宣言付支払督促は、強制執行をするための債務名義として残っています。
時効援用の通知をしただけで、確定した仮執行宣言付支払督促が自動的に消えるわけではありません。
債権者が時効援用を受け入れ、今後強制執行を行わない場合もあります。
しかし、債権者が時効の成立を争っている場合や、すでに差押えが始まっている場合には、請求異議の訴えを検討します。
民事執行法35条1項は、請求異議の訴えを定めています。
債務名義に表示された請求権の存在や内容について異議のある債務者は、強制執行の不許を求めてこの訴えを提起できます。
簡単にいえば、
「この仮執行宣言付支払督促に基づく強制執行を許さないでください」
と求める訴えです。
| 現在の状態 | 主な対応 |
|---|---|
| 確定しているが、強制執行はまだ受けていない | 時効を援用し、債権者の対応や強制執行のおそれを確認する。時効を争われる場合や執行のおそれがある場合は、請求異議の訴えを検討する |
| 強制執行が開始されている、又は切迫している | 請求異議の訴えと強制執行停止を早急に検討する |
請求異議の訴えを起こしただけでは強制執行は自動的に止まらない
ここは注意が必要です。
請求異議の訴えを提起しても、それだけで強制執行が停止するわけではありません。
強制執行が開始されている場合や、執行が切迫している場合には、請求異議の訴えとは別に、強制執行停止の申立ても検討する必要があります。
民事執行法36条は、請求異議の訴えが提起された場合の強制執行の停止を定めています。
裁判所は、一定の要件のもとで、強制執行の停止を命じることができます。
場合によっては、すでに行われた執行処分の取消しを命じることもあります。
担保を求められる場合もあります。
時効援用の通知を送り、請求異議の訴えを起こせば、差押えも自動的に止まる、という関係ではありません。
強制執行が現実に問題となっている場合には、執行停止まで含めて対応を考える必要があります。
確定後に時効を主張する場合の確認順序
実務では、おおむね次の順番で確認します。
1 債務名義の種類を確認する
確定判決なのか、仮執行宣言付支払督促なのかを確認します。
事件番号に「(ロ)」と記載されている場合は、支払督促事件であることの手がかりになります。
2 時効完成日を確認する
最後の返済日、弁済期、期限の利益喪失日などから、時効完成の可能性を検討します。
3 支払督促の申立日を確認する
時効完成日より前に支払督促が申し立てられていれば、完成猶予・更新が問題になります。
時効完成後の申立てであれば、確定後の時効援用を検討する余地があります。
4 その後の債務承認を確認する
支払督促の前後を問わず、次のような事情がないかを確認します。
- 一部弁済
- 分割払いの申出
- 支払う旨の約束
- 債務を認める内容の書面
5 強制執行の状況を確認する
すでに預金や給与が差し押さえられている場合には、請求異議の訴えと強制執行停止を急いで検討します。
時効完成後に一部弁済や支払約束をしている場合は注意
消滅時効の期間が経過していても、その後の対応によって時効援用が難しくなることがあります。
時効完成前の債務承認
民法152条は、権利の承認があった場合、その時から新たに時効が進行すると定めています。
時効完成前に債務を承認すると、時効が更新される場合があります。
時効完成後の債務承認
時効完成後は、少し違う問題になります。
最高裁昭和41年4月20日大法廷判決は、債務者が時効完成後に債務を承認した場合について判断しています。
この判決は、時効が完成していることを知らなかったとしても、その後に時効を援用することが信義則上許されない場合があるとしました。
そのため、時効の可能性がある場合に、債権者へ先に電話をすることには注意が必要です。
「少しずつなら払います」
「来月から支払います」
と話してしまうと、時効援用が難しくなるおそれがあります。
ただし、どのような行為が債務の承認に当たるかは、具体的な経緯によって判断されます。
一部弁済や支払交渉の事実がある場合でも、それだけで判断せず、内容を確認する必要があります。
支払督促と消滅時効について確認する資料
仮執行宣言付支払督促がすでに確定している場合は、次の資料をできるだけそろえてください。
- 支払督促
- 仮執行宣言付支払督促
- 裁判所から届いた封筒
- 差押命令など強制執行に関する書類
- 契約書
- 取引履歴
- 最後に返済した日が分かる資料
- 債権者や債権回収会社から届いた書類
- 一部弁済の記録
- 分割払いなどを話したメール・手紙
- 電話で支払交渉をした場合は、その日時や内容
- 過去に別の裁判や支払督促を受けたことが分かる資料
特に重要なのは、時効が完成した時期と、支払督促が申し立てられた時期を比較できる資料です。
消滅時効の基本的な仕組みを知りたい方へ
このページでは、仮執行宣言付支払督促が確定した後の問題に絞って説明しています。
消滅時効の期間、時効の起算点、債務承認などの基本的な仕組みについては、こちらのページをご覧ください。
よくある質問
Q. 支払督促が確定していると、もう消滅時効は主張できませんか
A. 必ずしもそうではありません。
支払督促の申立て前にすでに消滅時効が完成していた場合には、確定した後でも時効を援用できる場合があります。
重要なのは、時効完成日と支払督促申立日の先後です。
Q. 時効援用の内容証明を送れば、それだけで終わりますか
A. 必ずしもそうではありません。
債権者が時効援用を受け入れ、今後強制執行を行わない場合もあります。
一方、仮執行宣言付支払督促という債務名義は残っています。
債権者が時効を争う場合や強制執行を続ける場合には、請求異議の訴えを検討する必要があります。
Q. 通常の裁判で判決が確定している場合も同じですか
A. 同じではありません。
確定判決には既判力があります。
判決前に完成していた消滅時効を訴訟の中で援用しないまま判決が確定した場合、後の請求異議の訴えで初めてその時効を主張することは原則としてできません。
Q. 支払督促が確定すると、時効は10年になるのではないですか
A. 時効完成前に支払督促が申し立てられ、仮執行宣言付支払督促が確定した場合、時効は更新されます。
新しい時効期間が10年になるかについては、旧法が適用された下級審裁判例で判断が分かれています。
いずれにしても、支払督促の申立て前にすでに消滅時効が完成していた場合は別の問題です。
Q. すでに預金や給与を差し押さえられています。まだ対応できますか
A. 請求異議の訴えと強制執行停止を検討できる場合があります。
ただし、執行が進行している場合は時間的な余裕がありません。
裁判所から届いた書類をまとめて確認する必要があります。
Q. 支払督促を放置していたこと自体が、債務の承認になりますか
A. 督促異議を出さなかったという事情だけで、当然に時効援用ができなくなるわけではありません。
宮崎地裁令和2年10月21日判決でも、支払督促と仮執行宣言付支払督促の双方に異議を申し立てなかった事案で、確定後の時効援用が認められています。
ただし、その後に一部弁済や支払約束をしている場合は、別に検討が必要です。
まとめ|「確定しているか」だけでなく「時効がいつ完成したか」を確認する
仮執行宣言付支払督促が確定していると、
「もう争うことはできない」
と思ってしまいがちです。
しかし、通常の確定判決と仮執行宣言付支払督促には違いがあります。
支払督促は債務者を審尋せずに発付されます。
確定しても、通常の確定判決と同じ既判力は生じないと解されています。
支払督促と消滅時効を検討するときの分岐点は、次の3点です。
- 支払督促の申立て前に消滅時効が完成していたか
- 債務名義が確定判決なのか、仮執行宣言付支払督促なのか
- 時効完成後に一部弁済や支払約束などをしている場合、その経緯はどうだったか
支払督促の申立て前に消滅時効が完成していた場合には、確定した後でも時効を援用できる場合があります。
その可否を判断する際には、一部弁済や支払約束などがなかったか、具体的な経緯を確認する必要があります。
すでに強制執行が問題となっている場合には、請求異議の訴えや強制執行停止まで検討する必要があります。
当事務所では、対面相談で裁判所から届いた書類や取引経過を確認したうえで、消滅時効の成否と今後の対応を検討します。
当事務所の消滅時効援用対応力

当事務所では、複数事務所での経験と実績を活かし、借金問題における「時効援用」についても迅速かつ的確に多くの案件に対応しております。
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消滅時効援用 明確な弁護士法人あさかぜ法律事務所の弁護士費用
債権者側も必要性を感じてしばらく放置していた権利について書面を送付してきているわけです。そのことには裏(消滅時効が迫っている。すでに消滅時効期間が経過している。)があるのですから、なぜ今更?と思った方はすぐ弁護士法人あさかぜ法律事務所の無料相談にいらしてください。
消滅時効の援用のための弁護士費用も明確にご説明いたします。事務手数料などの名目で着手金や郵便にかかる実費以外の費用は発生いたしません。ご安心ください。
着手金 一社あたり 55,000円(消費税込み)
報酬 0円
実費 内容証明郵便発送にかかる費用を頂戴します。
その他に事務手数料等の名目で費用を請求することはございません。
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