「知った日から3か月」-原則はシンプルでも、月末の計算には注意が必要です
- 1. 「知った日から3か月」-原則はシンプルでも、月末の計算には注意が必要です
- 月末近くに相続の開始を知った場合
- 2. 11月29日に知った場合、期間の計算は11月30日から始まります
- 3. 「2月30日」が存在しない場合、期限は2月末になります
- 4. 2月28日や29日が土日祝の場合は、期限が繰り下がります
- 2026年11月29日に知った場合は3月1日が期限になります
- 休日による繰下げと「熟慮期間の伸長」は別の制度です
- 5. 実際の事案-平年でも3月1日までと考えられないか
- 6. 実務上は「3か月後」を暗算しないことが大切です
- 7. では、この事案は最終的にどうなったのでしょうか
- 熟慮期間起算点を後ろに滑べらせる
- この事案から分かること
- 8. 「死亡を知った日」と「自分が相続人になったことを知った日」は同じとは限りません
- 「死亡を知った日」≠「自分が相続人になったことを知った日」の典型例
- 9. 相続放棄が受理されても、後の訴訟で効力が問題になることがあります
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相続放棄には期限があります。
民法915条1項は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に、相続の承認または放棄をしなければならないと定めています。
この3か月を一般に「熟慮期間」と呼びます。
月末近くに相続の開始を知った場合
「3か月」という期間自体は広く知られています。しかし、実務では期間の数え方が問題になることがあります。
特に注意したいのが、月末近くに相続の開始を知った場合です。
単純に「同じ日の3か月後」と考えると、期限を誤ることがあります。
当事務所が実際に取り扱った事案でも、熟慮期間の満了日が問題になりました。
この事案では、家庭裁判所への追加説明も必要になりました。
今回は、この事案をもとに熟慮期間の数え方を解説します。
あわせて、期限を過ぎたように見える場合の「起算点」についても解説します。
11月29日に知った場合、期間の計算は11月30日から始まります
民法140条は、期間の初日の取扱いを定めています。
日、週、月または年によって期間を定めた場合は、原則として初日を算入しません。これを「初日不算入」といいます。
例えば、11月29日に相続の開始を知ったとします。11月29日は熟慮期間に算入しません。期間の計算は翌日の11月30日から始まります。
ここまでは比較的分かりやすいところです。
問題は、その3か月後に当たる日です。
「2月30日」が存在しない場合、期限は2月末になります
月によって期間を定めた場合は、暦に従って計算します。
このルールは民法143条に定められています。
月の途中から期間を計算する場合は、最後の月における起算日の応当日の前日に期間が満了します。
例えば、11月30日を起算日とした場合を考えます。
3か月後の応当日は「2月30日」となります。
しかし、2月30日は存在しません。
民法143条2項は、このような場合について特別なルールを定めています。
最後の月に応当する日が存在しない場合は、その月の末日に期間が満了します。
したがって、平年であれば2月28日が満了日になります。
うるう年であれば2月29日が満了日になります。
「3月1日までではないか」と考えたくなるところです。
しかし、平年であることだけを理由に3月1日まで期間が延びるわけではありません。
まずは民法143条2項に従って2月末日を満了日と考えます。
2月28日や29日が土日祝の場合は、期限が繰り下がります
ここには、もう一つ確認すべきルールがあります。
2月28日や2月29日が裁判所の休日に当たる場合です。
この場合は、休日に関する期間計算のルールが適用されます。
民法142条にも、期間の末日が休日に当たる場合の規定があります。
相続放棄の申述については、家事事件手続法にも期間計算の規定があります。
家事事件手続法34条5項は、民事訴訟法95条から97条までを家事事件の手続の期間について準用しています。
民事訴訟法95条3項は、期間の末日が一定の休日に当たる場合について定めています。
対象となるのは土曜日と日曜日です。国民の祝日に関する法律に規定する休日も対象です。
また、12月29日から12月31日まで1月2日と1月3日も対象です。
これらの日が期間の末日に当たる場合は、期間はその翌日に満了します。
翌日も同じ休日に当たる場合は、さらに翌日へ繰り下がります。
実務上は、次の開庁日が期限になると考えると分かりやすいでしょう。
例えば、2月28日が土曜日だったとします。
翌日の3月1日は日曜日です。
この場合は3月1日にも期間は満了しません。
次の3月2日が平日であれば、3月2日が満了日となります。
月曜日が祝日であれば、さらに翌日へ繰り下がります。
2026年11月29日に知った場合は3月1日が期限になります
具体的な日付で考えてみます。
2026年11月29日に相続の開始を知ったとします。期間の計算は2026年11月30日から始まります。民法143条による原則的な満了日は2027年2月28日です。
2027年2月28日は日曜日です。
そのため、期間はその日に満了しません。翌日の2027年3月1日に満了します。この場合は、結果として3月1日まで相続放棄の申述が可能です。
ただし、理由は「平年だから1日足りないため」ではありません。理由は「2月28日が日曜日だったため」です。この二つは法的な根拠が異なります。
休日による繰下げと「熟慮期間の伸長」は別の制度です
休日による期限の繰下げに、家庭裁判所への申立ては必要ありません。法律の期間計算によって満了日が決まります。
これに対して、民法915条1項ただし書の熟慮期間の伸長は別の制度です。
期間伸長には家庭裁判所への申立てが必要です。
期間伸長は、相続財産の調査などに時間を要する場合に利用する制度です。
したがって、両者は区別して考える必要があります。
実際の事案-平年でも3月1日までと考えられないか
当事務所が担当した相続放棄事案でも、満了日の計算が問題になりました。
当初の相続放棄申述書には、相続開始を知った日として11月29日を記載しておられました。ご相談からすぐに申立の準備に取り掛かり、申述の準備は期限直前になっていました。そのため、満了日を正確に確定する必要がありました。
11月29日は初日不算入となります。期間の計算は11月30日から始まります。最後の月である2月には30日が存在しません。
民法143条2項によれば、平年は2月28日が原則的な満了日となります。うるう年は2月29日が原則的な満了日となります。
当時は、平年の場合だけ暦日数が1日短くなる点にも着目しました。
そこで、3月1日まで熟慮期間が続くと解する余地がないかを家庭裁判所に上申しました。しかし、この考え方は採用されませんでした。
民法143条2項は、最後の月に応当日が存在しない場合のルールを明確に定めています。
その場合は、その月の末日に満了します。
したがって、平年と前年との日数差だけを理由として3月1日まで延ばすことは困難です。(もっとも、先ほど説明した休日補正は別です。)
実務上は「3か月後」を暗算しないことが大切です
相続放棄の期限は、単純な暗算で処理しない方が安全です。
最初に「自己のために相続の開始があったことを知った日」を確認します。
次に、初日不算入のルールを確認します。その後に、期間の起算日を確定します。さらに、最後の月に応当日が存在するかを確認します。
応当日が存在しない場合は、その月の末日を確認します。
最後に、その満了日が土曜日や日曜日などに当たらないかを確認します。
この順番で確認すれば、期間計算の間違いを減らすことができます。
また、相続放棄の申述書を郵送する場合にも注意が必要です。
郵便を発送した日だけでは足りません。
熟慮期間内に家庭裁判所へ申述書が到着する必要があります。
裁判所も、3か月以内に申述書が到着するよう余裕をもって提出するよう案内しています。期限直前の郵送は避けるべきです。
戸籍等がすべてそろっていない場合でも、期限が迫っているときは申述書を先に提出できる場合があります(弁護士に委任する場合、弁護士への委任状は必要です)。
必要書類の取扱いは、申述先の家庭裁判所へ確認することが安全です。
では、この事案は最終的にどうなったのでしょうか
熟慮期間起算点を後ろに滑べらせる
ここまで読むと、期限計算を誤って相続放棄ができなくなった事案に見えるかもしれません。
しかし、この事案では最終的に相続放棄の申述が受理されました。ポイントは、満了日をさらに後ろへ動かすことではありませんでした。
改めて検討したのは熟慮期間の「起算点」です。
当初申述書に記載されていた日が、本当に民法915条1項の起算点なのかを確認しました。
申述人が相続開始の原因となる事実を知った時期、申述人が自分の相続人としての地位を認識した時期も確認しました。
その経緯を裏付ける資料も整理し、その内容を家庭裁判所へ説明しました。
その結果、当初想定していた日とは異なる時点を前提として、相続放棄の申述が受理されました。
この事案から分かること
この事案では、満了日そのものを1日後ろに動かす主張は採用されませんでした。民法143条に基づく期間計算は当然ですが厳格です。閏年との公平性だけでは容れてくれません。
一方で、起算点については事実関係を改めて確認する余地があり、上記の主張と並行して調査を進めていました。この確認が最終的な相続放棄の受理につながりました。
まず、正確な満了日を計算する必要があります。休日補正を含めて。
次に、本当にその日が熟慮期間の起算点だったのかを確認する必要があります。
具体的な経緯を時系列で整理し、その経緯を裏付ける資料を確認することも調査の中身として大切です。
「死亡を知った日」と「自分が相続人になったことを知った日」は同じとは限りません
熟慮期間は、単純に被相続人の死亡日から始まるわけではありません。裁判所は、起算点について二つの事実を問題にしています。
一つは、相続開始の原因となる事実を知ったことです。
典型的には、被相続人が亡くなったことを知ったことです。
もう一つは、自分が法律上の相続人になったことを知ったことです。
この二つを知った時から、原則として熟慮期間が進行します。
おおよそのケースではこの2つは一致します。
「死亡を知った日」≠「自分が相続人になったことを知った日」の典型例
しかし、被相続人と長期間交流がなかったケースがあります。
この場合は、死亡した事実をかなり後になって知ることがあります。
また、先順位の相続人が全員相続放棄をしたケースもあります。
この場合は、後順位者が相続人になります。後順位者がその事実(先順位が全員放棄した事実)を後から知ることもあります。というより大体のケースはそうなります。
第3順位(被相続人の兄弟姉妹)の方が相談に来られる際は、顔面蒼白になられて「死亡から3ヶ月経っているから相続放棄できないの?てか3ヶ月って無理じゃないの!?」とよく私たち弁護士が怒られます。すみませんと一旦謝ります。
でも、「死亡から3ヶ月ではなくて、死亡を知った日とあなたが相続人になったことを知ってからカウント開始です。」とお答え差し上げるとご安心いただけます。
とはいえ先順位の相続放棄を知ったあとに割と遅めにゆっくり来られるのでこちらが顔面蒼白になります。
このように、死亡日と熟慮期間の起算点が一致しないケースが多々あります。
ご不安な方はすぐにお近くの弁護士にご相談ください。
相続放棄が受理されても、後の訴訟で効力が問題になることがあります
家庭裁判所が相続放棄の申述を受理することには大きな意味があります。しかし、受理によってすべての法律関係が最終確定するわけではありません。
相続放棄の申述の受理には、確定判決のような既判力はありません。
そのため、債権者などが後の民事訴訟で相続放棄の効力を争う場合があります。
相続放棄が受理されたことと、後の訴訟でその効力が一切争えないことは別の問題です。
期限を経過した事案では、この点も意識しておく必要があります。
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